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テクノロジーアート、クリエイター・アーティストのIT活用

音楽が売れない

※以下は2009年4月に作成した文章です。

 2009年1月、社団法人日本レコード協会は2008年のオーディオレコード総生産金額が、元号が平成になって初めて3000億円を下回ったと発表した。10年前に過去最高の売り上げとなった6074億円から毎年減少を続け、市場規模は半分になり、「CD不況」であることを改めて思い知らされる統計結果となった。音楽業界にこの10年でいったい何が起こり、それをアーティストはどのように感じているのだろうか。

CD売り上げに貢献していたものとは?

 シングル、アルバムあわせて48作ものミリオンセラーが生まれた1998年。なぜこんなにもCDが売れていたのか、IT・音楽ジャーナリストの津田大介さんに聞いた。
「一番わかりやすいのは当時カラオケが流行っていて、シングルCDがとても売れていたというのがあります。」
 全国カラオケ事業者協会の「カラオケ白書2008」によるとカラオケボックスルーム数は1996年から1998年にかけて、15万室以上営業していた。カラオケボックスの普及は、カラオケがお父さん世代のものだけではなく、女性や10代まで、性別や世代を超えて支持されていったという点において、CDの売り上げに貢献したと言えるであろう。
 だが、CDの売り上げは右肩下がりとなり、有料音楽配信の売上金額を加味しても2008年は4000億円に届かない。
 「右肩下がりには、いくつか要因が考えられます。1つめは、日本の若者の人口が減っているということ。2つめは、一世帯あたりの平均所得がここ10年で100万円近く下がり、娯楽へ使う金額が減ったこと。3つめにはDVDや携帯が一般化し、娯楽が多様化して音楽に費やす時間が減ったこと。これらの要因が重なって今の状況になっています。現状を考えるとある程度自然な流れであり、カラオケブームの頃の売り上げが異常ともとれるでしょう。」

音楽業界の対策とは?

 もちろん、音楽業界も何も対策をしてこなかったわけではない。CDの売り上げが落ち始めた頃、音楽業界は音楽が売れなくなってきた原因のひとつがインターネットであるとし、技術でそれを押さえ込もうとした結果、生まれたのがコピーコントロールCD(CCCD)である。パソコンの高性能化によってCDの音楽データをパソコン上に移して再生することが可能になる頃、しばらくして音楽データをNapsterなどのファイル共有ソフトを使って、インターネットを通じてコピーする著作権の侵害行為が問題となった。そこで、オーディオ機器では再生できるがパソコンへのコピーができないCDとして、コピーコントロールCDが開発されるきっかけとなった。しかし実際には、コピーコントロール機能特定のパソコンでしか作動せず、対応機種以外ではコピー可能であったり、正規のCDプレイヤーでは正常に再生されないどころかプレイヤー自体が壊れるといった例が報告されているため、現在では事実上導入を撤退している。
 また、日本の音楽業界は2000年頃から海外にCDなどの音楽ソフトを輸出して販売することで海外進出を行っていたが、現地の相場に合わせて安く販売していたため、これを国内のレコード店が買い付けて日本に逆輸入して、国内の定価よりも安く売るというビジネスを開始した。そこで、その音楽CDを国内に輸入することを禁止する制度として、いわゆる「レコード輸入権」を定めた。しかしこの制度は、洋楽のレコードもレコード会社が望めば輸入禁止できるという意味が含まれているという文化庁の説明内容があったため、それまで無関心であった音楽ファンに波及し、法案反対の声があがった。法案自体は2005年1月1日から施行されているが、適用は日本国内で最初に発行されたタイトルに限るとされている。さらにこの件に関し、レコード会社によるパブリックコメントへの組織票疑惑など、成立する過程に問題が多いとし、コピーコントロールCDの件も相まって、音楽業界への不信感を持ったこともCD売り上げ低下を加速させたと津田さんは語る。

海外もCD不況

 CD不況は日本だけではなく、世界最大の市場であるアメリカでも顕著である。全米レコード協会の統計資料によると、ピークだった2000年の約130億ドルあった売り上げが2007年には音楽配信を含めても約85億ドルに減少している。当時、CDの売り上げを牽引していたのは、もちろんカラオケではなく、バックストリート・ボーイズやブリトニー・スピアーズなどのアイドルポップスブームであった。しかし、ブームの終焉とともに、アメリカの音楽販売の小売シェアでアップルが1位になるなど、日本以上にパソコンを利用して音楽データを手に入れることが一般化されていることが減少の原因とされている。このことから、まだ音楽配信がそれほど普及していない日本では、さらにCDが売れなくなるのではないかと予想できる。

「音楽不況」ではない

 しかし、津田さんの見解ではCD不況の現状であっても音楽不況ではないとみている。例えば、アメリカのメタルバンド「ドリーム・シアター」のチケット代がここ2,3年で80ドルが240ドルに上がっているにもかかわらず、集客ができているという。国内でもライブやフェスの動員が年々増えており、体感型の消費スタイルが定着してきていると言える。また、TSUTAYAなどのレンタルCDの普及は、音楽が人を繋ぎとめる力をまだまだ持っているという象徴といえ、音楽を聴いている人の絶対数はほとんど変わっていないという印象があるという。

アーティストはやめた方がいい?

「『バンドでデビューしたいんですけど』とか相談に来る人にはやめた方がいいってアドバイスしちゃうね。」
と話すのは、シンガーソングライターのエガワヒロシさん。エガワさんは1999年にメジャーデビュー。2年でシングル5枚とアルバム1枚をリリースするがレコード会社との契約が切れてしまう。
「デビューが10年前だから、まだましだった。今は本当に大変だと思うし、俺より前にデビューした人はいいよなーって思うことも多い。たとえば、俺がデビュー前に作品をプロデュースしていたGOING UNDER GROUNDの曲で、2003年に出た『トワイライト』というのがあるのだけれど、この曲がミクシィでコミュニティになっているくらい人気のあるシングルなのね。たぶんもう5年早かったらあと4〜50万枚売れていてもおかしくないと思うんだよね。」
と、今の業界の状況を語ってくれた。
「『食ってくの大変だし…』なんて言っている人は絶対やめた方がいい。それを度外視して、とにかくやりたいって人じゃないとやっていけない状況だと思う。10年前にデビューしたバンドの人たちが今何人表舞台でがんばっているかってことですよ。」
 さらに、CD不況についての影響にまで話が及ぶ。
「CDの売り上げで全部をまかないましょうっていうのが今のシステムだから、CDが売れない今は無理がある。さらにCDを売るためのライブはレコード会社から払われる援助金がないと収益が出ない。CDが売れない今は援助金が払われているかどうかわからないし、ライブハウスにはノルマを払ったり、地方だと旅費もかかったりするから、事務所は何で儲けるかというと、グッズで儲けるしかない。最近のライブってほぼ必ずグッズ紹介コーナーがMCの中にあるでしょ?あれは死活問題だよね。」
 そして、実はライブハウス自体の仕組みにも問題があるという。
「例えばライブをやる時に、アーティストはライブハウスからチケットを買うというノルマシステムがある。ぽっと出のバンドがやるとしても最初なら友達が来てくれるだろうけど、何度もやれば来なくなるからと金銭的に厳しくなる。その点、海外ではどうかというと、ライブハウスは客の飲食代で儲ける工夫と努力をしているため、アーティストはその日の売り上げからギャラを貰う。アーティストとして理想的なのは後者だよね。また、客の意識もライブを見に来ているというよりも酒を飲みに来ているという感覚が根付いているから成りたっているとも言える。最近だとクラブの文化はそれに近い。」

毎週採用されないと無理

 ここで、エガワさんは現在どのような生活を送っているのかを伺うと、
「自分の主催のライブも自主盤でのアルバムの製作も収益としてははっきり言って形になっていない。だけど、僕の音楽の才能を認めてくれた上で作詞、作曲、アーティストプロデュースなどの仕事をもらったりして音楽を続けられるだけの環境と、プラス昼間はサラリーマンとして働いて、かつ融通がきいているからやっていけているだけ。最近になって裏方の仕事がコンペに調子よく通るようになったから、音楽一本で行けるかなと思っていたけれど、作詞が1曲採用されたとしても、CDが1枚売れて直接印税は4円くらい。月30万稼ごうと思ったら、75000枚くらい売れなければならない。これは毎週採用されて毎週トップ50に入ってやっと生活できるくらいの規模だから、今の状況は無理だなって思うね。生活で言えば武道館やったことある人であっても今はバイトしている人だっている。

音楽で食べて行くには

 だが、音楽で食べて行くことに関して、悲観的な話題だけではない。それは技術の進歩によって開発された新しいレコーディングシステムである。今までレコーディングスタジオでやっていたことがパソコンの中である程度作業できる「Pro Tools」というシステムが開発され、エガワさんも新しい作品ではこれを使って完成させたという。音楽業界の中では、例えば、作曲者はイメージを伝えるために、楽器ではなく「プロツールス」を使うことで、アレンジまで伝えやすくなる。また、操作性がよく一人でも作業可能なため、プロのレコーディングエンジニアでなくてもある程度のクオリティの音源を作ることができ、商品化までの時間が短縮できるほか、バンドサウンドとは違う、パーソナルな作風の作品が作られやすくなるといったメリットを持っている。
 こういった技術の進歩による変革は、レコーディングに限らず起きている。例えばプロモーションもYoutubeMyspaceなどのインターネットを利用したプロモーションを使うことでコストを抑えることは可能である。最近では、インディーズバンド「相対性理論」が異例のオリコンデイリーアルバムランキング4位を記録した。雑誌の取材をほぼ受けておらず、4大マスコミの露出はゼロに等しい。しかしインターネット上では、オフィシャルサイトのほか、プロモーションビデオなどの動画が早くから公開されており、耳の早い人たちの口コミで広まった感がある。宣伝手法は製作ほど具体的な事例は無いが、インフラが整うにつれて効果的な方法論ができてくると思われる。
 このように、大量に売るためのプロセスが崩壊した今、現状のシステムからなるべく早く脱却し、最新の技術に耳を傾けて多品種少量生産に挑むことが、音楽業界の課題ではないだろうか。音楽に対する情熱と才能を持ち合わせたアーティストが、よりよい環境で活動できるシステム作りが求められている。